トレジャリー・マネジメント①: トレジャリーって何?

トレジャリー・マネジメント①: トレジャリーって何?

トレジャリー(treasury)は、日本では「資金管理」または「財務管理」と訳されることがありますが、このような訳ではこの職務の全容を表しているとは必ずしも言えません。

今回は、トレジャリーという業務について、言い換えればトレジャラー(treasurer)というのはどんな業務の責任者なのかについて説明します。

説明にあたっては、英国コーポレート・トレジャラー協会(Association of Corporate Treasurers, ACT)の資料をベースにします。


比較的浅いトレジャリーの歴史

トレジャリーは過去30年の間に⾶躍的な発展を遂げた業務分野です。

トレジャリー部門が個別独立した業務として認知され始めた頃の主な使命といえば、

「会社が期限までに債務を返済できるように万全を期すこと」、すなわちキャッシュ・流動性マネジメントに限られていました。

ところがビジネスの国際化に合わせて⾦融市場の⾃由化と⾼度化が進む⼀⽅で、規制の強化にも対応しなければならない環境下において、トレジャラーは新たな役割を担うようになりました。

その中でも最も重要なものは、財務リスク、特にボラティリティの高い為替と⾦利に関連するリスクマネジメントです。

さらにこれらのリスクに加え、トレジャラーは、会社の資本構成、投資評価、M&A、事業売却、さらには税務問題にまで関与することを求められることが多くなりました。

またトレジャラーの中には、年⾦リスクマネジメントや保険といった、本来のトレジャリー業務からみれば周辺的と思われる分野まで担当しているケースもあります。

トレジャラーの五大職務

ACTが発行する国際トレジャリー・マネジメント資格、

Certificate in International Treasury Management (CertITM)の公式テキストによれば、トレジャラーの主要業務は以下の5つとされています。

  • キャッシュ・流動性マネジメント
  • 資⾦調達
  • 財務マネジメント
  • リスクマネジメント
  • 業務システムとプロセスの統制

以下にこれらの概要を説明します。

 キャッシュ・流動性マネジメント

キャッシュ・流動性マネジメントには、下表のような基本職務が含まれます。

業務 業務目的
キャッシュポジション管理 銀⾏⼝座残⾼を監視するための情報と流動性の管理ツールにより、短期債務の支払いに十分なキャッシュ及びニアキャッシュを確保すること
銀⾏⼝座体系の構築 借⼊コストの最小化と利息収⼊の最⼤化を実現し、流動性管理を促進させる銀⾏⼝座体系を構築・維持すること
回収 売上債権の回収を行う上で効率的な銀行口座体系を構築・維持するとともに、回収プロセスを管理するためのインフラを整備すること
⽀払い 支払い業務を行う上で効率的な銀行口座体系を構築・維持すること
短期資⾦運⽤ 余剰資⾦の最適な運用を図ること
短期借⼊ 短期信⽤枠の最適な利用を図ること

以上の他に、最近では以下のような業務も、キャッシュ・流動性マネジメントに含まれるようになりました。

  • 中短期のキャッシュフロー予測
  • 為替管理
  • 関係会社間の支払債務のネッティング
  • クロスボーダーの流動性マネジメント
  • 貿易⾦融と銀行保証
  • キャッシュ・マネジメント・システム(CMS)の選定及び導入

 資⾦調達

資⾦調達には、銀⾏からの長期借⼊や資本市場での社債発⾏のみならず、外国為替取引やキャッシュ・マネジメントに必要なその他の補完的な信⽤枠によるデットファイナンスの⼿配も含まれます。

会社にとって適切な負債⽔準を決めるのは取締役会ですが、トレジャラーはこの⽔準について提案を行うCFOを補佐する⽴場にあります。

通常トレジャラーは、金融商品、満期、通貨、⾦利水準といった⾯から資金調達を検討し、信⽤枠の確保または資本市場でのデットファイナンスのための条件交渉を行います。

トレジャラーはまた、契約書の作成や金融機関とのリレーションシップ・マネジメントも担当します。

 財務マネジメント

トレジャラーは、会社の資本コストを最⼩化させるにあたり、エクイティに対するデットの⽐率が適正に保たれるべく、取締役会の⽅針を資本構成に反映させなければなりません。

⽅針の設定は主にCFOの仕事ですが、トレジャラーは、資⾦調達の⼿配、M&A及び事業売却の詳細な評価、プロジェクト及び投資評価、並びに新規事業開発にも関与します。

これらのすべてにおいて、資本コストは重要な役割を果たすからです。

 リスクマネジメント

トレジャラーは、リスクマネジメントのフレームワークに基づくリスクマネジメント⽅針の設定と、リスクマネジメント戦略の承認プロセスに深く関与します。

これまでリスクマネジメントといえば、トレジャリー分野における3つの主な財務リスク、すなわち外国為替・流動性及び⾦利リスクを指してきました。

しかしながら、トレジャリー部⾨が⾃社の事業活動を実効性のある形で支援するにはビジネスへの理解を深めることが必要です。

そのためには、リスクマネジメントに全社的なアプローチを採⽤しなければならないという考え方が一般的となりました。

結果、多くの組織において、リスクマネジメントに関わるトレジャリー部⾨の役割は、コモディティ・保険・年⾦リスク、オペレーショナルリスクさらには信⽤リスクにまで拡⼤しています。

 業務システムとプロセスの統制

トレジャラーは、トレジャリー業務活動を支援し、リスクを統制するため、下記のような業務システムとプロセスの整備に万全を期さなければなりません。

  • 財務リスクエクスポージャーを構成する要素の明確化
  • グロスエクスポージャーを把握したうえで、これを記録し要約するためのシステム
  • 取引を記録し、決済と会計処理に適切に対処するためのシステム
  • ネットポジションを知るためにグロスエクスポージャーを分析する手法
  • ネットエクスポージャー及び様々なリスクマネジメント戦略の全社的影響を明らかにするシステム
  • シームレスな統制と報告を実現するために必要な社内の他システムとの統合
  • オペレーショナルリスクのマネジメントと統制

専門家集団としてのトレジャリー部門における職務機能のマネジメントもトレジャラーの重要な職務です。

職務機能のマネジメントとは、これまで述べてきたトレジャリー部⾨の多様な職務を管理、組織、監視及び統制することを指します。

トレジャリー部⾨の職務は、規模及び組織構造の点で非常に多様性があります。

⼤規模で複雑な国際企業のトレジャリー部⾨は、多数のスタッフを擁します。

こうしたスタッフは、特定地域を担当するトレジャラーのような専⾨的なマネジャーであったり、外国為替ディーラーや資⾦運⽤マネジャーのような特定分野のトレジャリー活動のエキスパートだったりします。


まとめ

トレジャラーには、「バランスシートの守護者」(guardian of the balance sheet)という異名があります。

現代のグローバル企業のバランスシートを守るには、単なる金庫番では務まりません。

トレジャラーの守備範囲は、このように急速に広がっているのです。

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